デジタルテスト白書から考える試験運営のあり方

はじめに

私の所属する株式会社全国試験運営センターは試験運営、とりわけ非常設会場での試験運営を主な事業としています。試験運営の中でもPBTPaper Based Testing)の割合が高いですが、運営難易度の高い大規模一斉実施型の運営を通じてデジタルテストの推進に貢献していると自負しております。

そうは言うものの、デジタルテストについて多くを語れるほどの知見や経験を十分に有しているわけではありません。そこで今回のブログでは、デジタルテスト白書に記載されたアンケート結果をベースに運営会社の立場から感じたことを述べたいと思います。なお、アンケートを参考にしつつも、会員になって実際に白書をお読みいただきたく、具体的な回答者数については記述しておりませんのでその旨ご容赦下さい。

デジタルテスト白書の概要はコチラからご覧ください。 ⇒ デジタルテスト白書

デジタル試験の認知度

デジタルテスト白書では、テストのデジタル化のメリット・デメリットの両面が公平に記述されており、その内容は示唆に富んでいます。実際の資格試験受験者約1,000名へのアンケートによれば、デジタルテストの認知度は8割を超え、さらに実際に受験を経験した比率も同程度でした。50歳未満では認知度が8割以上に達しており、一般的な受験方法として受け入れられていると考えられます。

一方で、60歳以上では「知らない」と回答した人が3割を上回りました。私はその世代に含まれますが、仕事柄、数年に1度資格を更新する際にデジタル試験を受けてきましたので「およそ3人に1人が知らない」という比率の高さには意外性を感じ驚きました。

デジタル試験に期待すること

次に、デジタルテストに対して最も期待されている点として、「会場の自由度(自宅や近隣施設で受験可能)」と「試験日程の柔軟性」の2点が突出していました。デジタルテストの利便性が大きな特長であることが、受験者に適切に広く認識されているといえます。

デジタルテストの不安要素

一方で、デジタルテストに対する不安要素として、「操作ミスにより失点」「通信トラブルや機器不良」「操作方法の習得に時間がかかる」など、操作面に関する不安が多く寄せられていました。

「操作ミスによる失点」を不安視する比率は20代でもかなり高くデジタル環境に慣れた世代の受験者でさえ懸念を抱いていることは驚きでした。キーボードのスキルや実体験に基づくミスに起因する不安なのか、あるいはイメージ先行の不安なのか、もう一歩踏み込んだ理由を知りたいと感じました。

しかしながら、「多くの受験者が誤操作によって自分の実力が正しく反映されないことを不安に思っている」という前提に立って試験を運営する必要があることを認識できたのは大きな収穫でした。受験者の誤操作不安に対しては、開始前の丁寧な操作説明の実施、随時利用できるサポートの明確化、監督員による得点に影響しない範囲での操作支援などがユーザー体験の改善点として取り組む必要がありそうです。

PBTとの公平性の比較とデジタル試験受験者の評価

デジタルテストとPBTとの公平性の認識においては、「PBTのほうが公平だと感じる」が、「デジタルテストのほうが公平だと感じる」を上回りました。理由としては、「すべての受験者が慣れ親しんだ方法だから」「機器トラブルによる不利益がないから」が高く、その比率は想像以上でした。

実際に、デジタルテストの経験者は「快適な環境で受験できる」「結果がすぐにわかる」「好きな日時に受験できる」の項目が高く、その快適性を評価する一方で、「操作性の改善」「試験監督や案内の充実」等が小さくない水準で改善要望として挙げています。

デジタルテストを一層推進するにあたっては、操作性という技術的側面だけでなく、操作に不安を感じた場合のサポート体制の充実により、受験者がデジタルテストに不安を感じないUXを積み重ねていくことが不可欠と感じました。

最後に

さまざまなプロセスがデジタル化される中で、試験運営において運営スタッフに求められる役割は相対的に小さくなっていくと予想されます。ただし、操作方法を適切に指導ができるITスキルとホスピタリティ、トラブル時の臨機応変な対応力をもつ能力の高いスタッフの必要性が今後益々増していくものと思います。

試験運営に携わる者としてデジタルテスト運営に相応しいスタッフの育成と確保・手配によりデジタルテストの一層の普及ならびにデジタルテスト推進協会の発展に貢献したいと考えております。

都築成幸
都築成幸
DiTA理事 株式会社全国試験運営センター 代表取締役社長