市場の変化と一般社団法人デジタルテスト推進協会設立の背景

コロナ禍と生成AIがもたらした大きな変化

一般社団法人デジタルテスト推進協会の活動にご関心をお寄せいただき、大変嬉しく存じます。今年も長く厳しい暑さが続いておりますが、皆さま体調を崩されてはいらっしゃいませんでしょうか。

さて、長く続いたコロナ禍は試験業界を取り巻く環境に大きな影響を与えました。加えて、生成型AIが急速に市場へ浸透しつつあります。私たちは、歴史上かつてないほどの大きな変化の渦中にあると言っても過言ではありません。実は、これこそが当協会設立の大きな背景の一つです。今回は、市場の変化と当協会設立との関わりについてご説明いたします。

国際会議と世界の動向

私は当協会の理事を務めると同時に、二つの役割を担っております。一つは、Asia-ATPAssociation of Test Publishers)の日本支部「Japan Special Interest Group」の代表理事として、海外の試験事情を国内の皆さまと共有すること。もう一つは、教育関連事業・医療福祉事業を手がける株式会社学研ホールディングスの執行役員として、語学事業や社会人教育事業を担当することです。

Asia-ATPはコロナ禍を経て、2023年秋に国際会議を再開しました。2023年は中国・三亜で開催され、AI型英会話アプリ大手でありDuolingo English Testを運営するDuolingo社と、中国最大手の通信会社であるTencent社(WeChat運営企業)が基調講演を行いました。翌2024年のタイ・バンコク会議では、タイ政府によるAIを活用した国家的な資格情報共有システムが紹介されました。

ここで注目すべき環境変化は三つあります。第一に、コロナ収束を契機に、国境を越えた就職・転職市場が一気に活発化したこと。第二に、2019年前後から急速に発展したAI技術により、資格や学習履歴の共有が容易になったこと。第三に、業種・業界の垣根を越えた提携や連携が加速していることです。第一と第二の変化が2020年代前半に一気に進展した結果、第三の変化を後押ししていると言えるでしょう。

日本の試験業界が進むべき方向

このような状況下で、日本の試験業界はいかに対応すべきでしょうか。もちろん、AIを活用した新たなサービス開発は喫緊の課題ですが、それに加えて、業界横断的な連携が今後の活性化の鍵を握ると考えます。従来から試験業界は、コンテンツ、会場運営、セキュリティなど、それぞれの専門家の知見に支えられてきました。今後はさらに、テスト産業全体を見渡すガイドラインの整備、将来像をめぐる議論、そして不足するコンテンツの拡充など、試験業界の枠組みを超えて、日本ならではの強みを築く取り組みが求められます。当協会がその一助となれれば、これ以上の喜びはありません。

今後も日本の試験・教育業界のデジタル化推進に資する情報を積極的に発信し、皆さまからのご意見を賜りたく存じます。引き続きご指導ご鞭撻をいただければ幸いです。

なお、本年2025年は中国・香港での開催を予定しております。ご興味をおもちの会員様は、ぜひ当協会までお気軽にお問い合わせください。

谷口正一郎
谷口正一郎
DiTA理事 株式会社学研ホールディングス 執行役員