TOEICのオンライン化とテストデジタル化の挑戦

TOEIC Programの概要とIPテストのオンライン化

ブログをご覧いただきありがとうございます。私は一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)においてTOEIC Programの普及に携わる一方で、一般財団法人デジタルテスト推進協会(DiTA)のメンバーとして日本におけるテストのデジタル化の推進に取り組んでいます。今回は、TOEICのオンライン化についてご紹介したいと思います。

TOEIC Programには、IIBCが主催する公開テストと、企業や学校が主催して実施するInstitutional ProgramIPテスト)があります。IPテストは、各団体が任意の日時に実施できる仕組みで、昇進や単位認定といった重要な意思決定に加え、学習促進を目的としたレベルチェックとしても幅広く活用されています。

しかし、マークシート形式でテストを実施する場合、全国に拠点を持つ企業は会場や試験官を手配する運営負担があり、受験者にとっても、決められた日時に出席することが求められるため、急な仕事や残業などでやむを得ず受験できないこともありました。

この課題を解消するため、20194月にオンライン形式のIPテストを導入しました。受験者の能力に応じて問題の難易度が変化する方式を採用し、従来2時間だった試験を1時間に短縮。さらに、受験後すぐにスコアを確認できるようにしました。時間や場所に縛られず、多忙な社会人にとって最適なタイミングで受験できるようになり、その結果をもとに学習計画を即座に見直すことも可能になりました。

コロナ禍による需要拡大とセキュリティ課題

しかし、2020年に新型コロナウィルスが拡大し、事態は一変します。学校やオフィスでの集合形式の実施が困難となり、オンラインテストの需要が急拡大しました。年間100万人規模の受験者のうち、約7割が一気にオンラインに移行したのです。そして、企業からは「昇進・昇格の判断にもオンラインテストのスコアを使いたい」という声が相次ぎ、セキュリティ強化が喫緊の課題となったのです。

まず導入したのはオンライン会議ツールを用いた遠隔有人監視です。しかし数千人が同時に受験することも多く、監視員の確保やPC環境の整備に追われただけでなく、受験者に対しては試験開始時間の統一が必要となりました。その結果、オンラインテストの最大の利点である「個人が最適な時間で受験できる環境」を提供できなくなってしまいました。

AI監視技術の導入と成果

これが、AIによる監視技術に着目したきっかけです。その時点で開発段階であったサービスを探し、数か月の検証を経て20213月に導入しました。AIは受験者全員を一貫した基準で監視し、不正の可能性が高い行為を検知。最終的な判断は人が行うことで、公平性を保ちつつ、運営負荷を大幅に軽減しました。そして何よりも、セキュリティを確保したオンラインテストの提供により、時間と場所の制約にとらわれない受験機会を実現できたことは大きな成果です。

受験者や企業からは、「仕事の都合に合わせて受験できる」「試験時間が短く集中力を保ちやすい」「受験後すぐに結果がわかり学習意欲が続く」「地方や少人数拠点でも公平な機会が得られる」といった声が寄せられました。単なる利便性の向上を超え、テストの社会的責任である公平・公正な受験機会の提供を強化する結果につながりました。

テストデジタル化の未来とDiTAの役割

オンライン化は受験機会の拡大を実現しましたが、テストのデジタル化にはまだ幅広い可能性が残されています。アダプティブかつよりオーセンティックな出題、自動採点、リモート監視の高度化、デジタル認定証の発行や公的個人認証との連携、学習者に合わせたパーソナライズド・フィードバックなど、多くの領域で価値の創出が期待できます。

TOEIC公開テストではブロックチェーンを活用したデジタル公式認定証を導入しましたが、今後はさらなるセキュリティ強化や、利用団体や学習者にとっての利便性向上の両立に取り組んでいきます。

現在、テスト業界は生成AI利用拡大や国際的な人材流動の加速という、歴史的にも大きな変化の中にあります。そのなかで求められるのは、個別のサービス改善にとどまらず、業界横断的な連携や指針の整備と、それらを通じて、誰もが自分の能力を公正に証明できる環境を整える取り組みです。その成果は、個人にとっての機会の拡大、組織における人材活用の高度化、そして社会全体の活性化につながると確信しています。

私たちDiTAは、会員企業や関係団体と連携し、公正で信頼性の高い受験機会を追求し続けるとともに、一人ひとりの可能性を広げ、日本の人材力向上に貢献していきたいと考えています。

DiTA副理事長 永井聡一郎

永井聡一郎
永井聡一郎
DiTA副理事長 一般財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会 常務理事